2006年2月発行機関誌 No.003

HOME > 機関誌 > 2006年2月発行機関誌 No.003

障害者自立支援法が2006年10月31日、衆院本会議で採決され、与党の賛成多数で可決、成立しました。 それに先立ち、この「障害者自立支援法」について書かれた理事長による記事を掲載いたします。

自立支援法、十分な議論を

2005年9月26日神戸新聞 掲載
誰もが安心して暮らせる社会こそ強く、成熟した社会であるー。
1975年、この理念をもって「障害者は、同年齢の市民と同等の生活を送る権利を有する」という障害者権利宣言が国連で決議され、世界的福祉の進む方向となった。

日本でも同じころ、障害当事者の自立生活運動が巻き起こっていた。かく言う私も、その渦中で自立生活を始めたのだったが、当時は、まだ施設収容主義の全盛期で、地域での介助保障など皆無に等しいものだった。

当時の私は、介助してくれるボランティアを探すため、大学で「ボランティア募集」のビラをまく毎日を過ごしていた。決してボランティアをしている人たちを批判するつもりはないが、ボランティアの人たちにも生活があり、その生活を守ってもらわねばならない。そのために、どうしてもボランティアを主とした介助体制だけでは、安定を欠き、障害者にとっては不安が付きまとうのだった。

その後、スタートしたのが2000年の介護保険だった。これは「介助の問題を社会全体の問題」として位置付けたという点では、大変意義深いものだといえる。しかしながら、社会参加が支援項目に含まれていないことや、支給量も少ないなど、数多くの問題点があった。

そして03年に「措置から契約へ」をうたって、支援費制度がスタートした。これは「与えられる福祉」から「生活を自己決定する福祉」への転換でもあったといえる。その結果、常時介助が必要な障害者が自立生活している場合には、24時間のヘルパー派遣を決定している市町もある。そして、趣味や娯楽も含んだ社会活動に、介助者とともに参加する機会が増えた。それは同時に社会とかかわる経験を積みながら、「自己の自立」というものを模索する絶好の機会になっている。

そうした中で、国は財政難を理由に、介護保険との統合を目指し、「障害者自立支援法案」の採択を急いでいる。これまで福祉の対象から外されがちだった精神障害者が含まれるなど、評価できる点はある。しかし、支給量の判定基準や社会参加の担い手であるガイドヘルパーの運営を市町に押し付けている点、そして応益(一律一割)負担の問題がある。結果として、障害者をその家族に見てもらおうという趣旨にほかならないのだ。

日本における「親密な家族関係」という文化は、私自身も否定するものではない。さまざまな選択肢の中から、介助する側、される側が、ともに家族介助を心の底から望むのならば良いのだが、果たして現実には「常識」にとらわれたものになってしまってはいないだろうか。介助に限らなくとも、家族が支え合うという関係は、十分にできるのではないだろうか。

今こそ「自立」という概念を考え直す必要を、私は感じる。「身辺自立」「経済的自立」「介助者とともに自己実現に向けた自立」など、どれも大切な自立の概念である。ただ、言えることは、これらは本人が選ぶということである。

地域の中で介助者とともに出勤したり、介助者とともに生活している障害者や高齢者を身近に見たり、感じたりしながら育っていく子供たちは、どんなに心豊かだろうかと思う。

障害者自立支援法の制定には、ぜひとも障害当事者の声を聞き、十分な議論を尽くしてもらうよう切に希望する。

らいふ・すけっと 理事長 高田 耕志

緊急勉強会を終えて

去る2005年7月6日に、障害者自立支援法に関する緊急勉強会を行いました。進行役として、高砂市の知的障害者更生施設「あかりの家」職員の濱口直哉さんを交えて行なったこの勉強会は、2週間という短い準備期間にもかかわら、50名余りの人が集まり、今後の東播磨での当事者運動の大きなきっかけとなりました。

勉強会の報告も兼ねて、勉強会のあとにらいふ・すけっと関係者へ送付しました文書をここに掲載します。

7月6日の支援費制度勉強会は、とても分かりやすい説明と活発な質疑があり有意義な会となったと喜んでいます、また沢山の方に来ていただいて今後につなげられたらと思っています。ここで私の感じたことをお伝えしたいと思います。

会場の質問の中に「自分は障害児の母親でヘルパーもやってますが、自閉症や精神障害の人のヘルパーをする人がいないし、自分も自信がない。専門的な知識や技術が必要なのでは」という質問がありましたが、これを聞いて、皆さんの中には、らいふ・すけっとでは今現実に自閉症児や知的障害児のヘルパーの仕事をしているのになぜそのようなヘルパーがいないと言われるのかという疑問や、特別な専門的知識を持たないとヘルパーができないのかという不安をもたれた方もあったのではと思いました。

この会で、らいふ・すけっとの自閉症児や知的障害児への支援の実践の一部を報告する予定でしたが、時間の関係で出来ずに終わりました。その内容は先の質問と結びつくものでもあり、ここでその内容をお伝えします。

(報告予定のケース)A君(小1男子、自閉症児)

A君が公園の砂場で一人で遊んでいた時、高学年の男の子女の子たちが来て砂場で穴をほりはじめた。そこへA君が近寄っていき、その穴に手を入れたり少しくずしたりしていると、その子たちが「やめて、こわれるから」とA君にやめるように伝えると一度はやめるが、また同じことを繰り返しやりだす。それを何回か繰り返していたが、とうとうその一人の子がヘルパーの所へやってきて「あの子が穴をこわすんでとめてもらえませんか」といいに来た。それでヘルパーはA君に「やめようね」と注意しました。

そのことをお母さんに伝えると、「そんなこと絶対にようさせとかんわ、人に迷惑になることは最初からようさせとかんわ」と言われました。

親は、いつも人に迷惑をかけさせないことを最優先に考え、子供の行動を見守るというのではなく、まずその子を制止してしまいがちであると思います。

でもその時の上級生とのやりとりの中で、いっぱいA君の何かを刺激したり、人との関わり方を実践して感じ取ってる場面だと思います。
A君は、穴を壊すときの砂が崩れ落ちる感触、壊した時の上級生の反応、またそれを何回か繰り返した時の上級生の反応の変化、ヘルパーに言いに行っている上級生の様子、それへのヘルパーの対応、などを楽しむかのように体験していたと思われます。
私は、このような体験を大切にしたいと思います。

自閉症児や知的障害児への支援には、特別な専門知識はあるに越したことはないですが、大事なのは、自発性やその子のやる気、やりたいことにそっていくことを大切にしながら、生活に必要なルールは教えていく、そのやり方を日々の仕事の中で模索していくことではないかと考えます。

現在も子供さんとの接し方に試行錯誤されていることと思いますが、今真剣に取り組んでいる姿勢に自信をもってやっていっていただきたいと思います。

所長 友田 美代子

〒675-0023
加古川市尾上町池田387-3
ユニハイツ101号